あれは 私達が四年生だった頃…季節は少し肌寒くなってきた初秋であった 私と文次郎は、学園内の池の畔で 普段通りに雑談をしていた ただ、あの日は普段よりも“真面目な話”をしなければならなかったのだ 「くノ一教室のミッちゃん、春頃に学園辞めたでしょ」 「学年的には五年生だったっけ?」 「そう、そのミッちゃん もうお腹に赤ちゃんが居るんだって」 「えぇ!?…まぁ 十四歳の女子だしな…そっか あの人もお母さんになるのか」 「……私にも来たの、縁談」 文次郎は 間抜け面で暫く呆けていた 「聞いてる〜? え・ん・だ・ん!」 「・・・・・が?」 頷くと 文次郎が溜息を吐いた 溜息吐きたいのはこっちの方だ 「相手は豪商の一人息子で、健康な女子を娶りたいんだって」 「……まさか、行くのか?」 「私だって行きたくない!…でも お家にとっての千載一遇の好機は逃すなって父様も……」 「…お前、まぁまぁの家柄だったな そういや」 「うん…」 「…………」 本人に直接言った事は無かったが 私は文次郎が好きだった あと二年間 同じ学び舎で共に過ごせると 当然の如く思っていた まだ“離れる覚悟”なんて 微塵も出来てはいなかったんだ 「が嫁ぐなんて 信じらんねぇ」 「…文次郎は 私が何処か知らない男の許に嫁ぐ事、どう思う?」 「……嫌だよ」 もしも あの時 お互いがお互いに気持ちを伝えていたとしても 私達は離れ離れになる運命だったんだから 更に悲しく、虚しくなるだけ 「文次郎と一緒に居れてよかった、楽しかったよ」 そう言うと 文次郎は苦虫を噛潰したような表情を浮かべながら 俺もだ、と呟いた 1.色褪せぬ初恋の想い出 私は今も 文次郎に再会したいと思っている 生きていれば 必ず会えると信じている 「あら さん、呆けていられる立場だと思って?」 姑の厭味を軽やかに聞き流し、大きく息を吸った だから私、此処で頑張っているよ 六年生になった貴方も 一人前の忍者になる為に 懸命になって頑張っている事でしょう (お互い元気なうちに…もう一度 会えますように) 心の中でそう呟きながら 今にも雨が降り出しそうな曇天を見上げた 恋 は 匆 匆 NEXT → (11.1.11 再会を糧にして) |